第13回 日経感染症会議を迎えて

 第13回日経感染症会議が10月27~28日に開催されますが,日経の予告紙面を見ても,ワクチン,病理薬などの研究体制についての議論が主体で,国力低下を左右する人流抑制策か,検査・隔離体制強化かなどの議論はないようです.小野・菊地らが発表した,東京都における第5~8波のpandemicにおける感染率βと検査・隔離率γの数理解析および検査・隔離体制強化による抑圧効果についての論文は,Google GeminiのDeep Researchでは,将来の抑圧対策としての意義が評価されています.以下に,社会経済活動の縮小より検査・隔離体制の強化の方が経済性の観点から重要である例を示し,また現在普及している抗原検査の重要性とワクチンの効果とその意義についても述べます.

1.検査体制の強化により感染者急増を抑圧した例として,第3波(2020年12月頃)で,福岡市の感染者が急増し行政の検査数が逼迫した際,ソフトバンク社が2021年3月頃にかけて福岡市の医療・高齢者・障碍者施設の従業者約11万人を対象にPCR検査を実施し,感染拡大を抑圧した.また,New York市では,2021年12月末から2022年1月にかけて,オミクロン株(BA1)による日毎陽性者が数万人に増加した.これに対して市ではPCR検査センターを過去最大(数十万件規模)に増加させると共に,抗原検査キットを無料配布(1人につき複数キット)した.このため日毎陽性者数は最大5万5千人以上が検出・隔離され,1月22日には5000人以下,2月11日以降は1000人以下に縮小した.AIによっては,検査数の拡大が日毎陽性者増加の原因と誤解する例があるが,これは間違いで,市中の感染者が発見・隔離されたのである.

2.小野による第5波の解析では,オリンピック開催と共に急増した第5波は,オリンピック開催行事と閉会行事における検査数の半減がなければ2021年8月中頃の最大日毎陽性者数は半減した可能性があることを示した.またワクチン接種により感染率は8月中頃50%に低下した可能性があると予測した.しかし小野・菊地論文による厳密な解析では,ワクチンによる感染抑圧効果は8月末でも検査による抑圧効果の1/3程度であった.即ち第5波の陽性者数の8月中旬以降の急減は専ら検査体制の強化によるものである.

3.一方,2021年10月から12月中旬までの長期間にわたり,東京都の日毎陽性者数は10人以下という少数に抑圧され続けていた.これはワクチン接種による感染抑圧効果によるものである.ワクチン接種効果は接種後約3週間後に現れ,しかも市民の接種率が増加しないと社会としての効果が現れない.このため第1,2回の接種による抑圧効果が最大となったのは11月初めである.ただし2021年10月から第6, 7波の山までは,ワクチン接種による抑圧効果は検査・隔離による抑圧効果とほぼ同程度である.

4.第6,7波の山では,陽性率の増加率に比例して検査数を増加させると日毎陽性者の最大値を半減以下に抑圧し,感染の波を早く収束できることを定量的に示した.しかし2022年10月より拡大したオミクロン派生種による第8波については,検査数を拡大してもその抑圧効果はほとんどなかった.これは第8波の山である2021年12月頃から日本においても抗原検査キットがコンビニやネットで容易に入手して自己検査でき,陽性であれば病院でPCR検査できるようになったためと考えられる.これは抗原結果キットが,上記New Yorkの例で見るように,検査体制の強化に寄与したことを意味する.

5.コロナワクチンは感染した場合の重症化を防ぐが,感染率を低下させる効果は少ないという意見が感染症専門家においても散見される.しかし我々の解析によればそれは間違いで,上述したように最大で検査・隔離体制相当の効果が示されている.ただし第1,2回目のワクチン接種による社会としての抑圧効果は約3か月後に最大となり,約6か月後には半減するので,第6波は2022年1月から急激に拡大している.また第3回目のワクチン接種はこれに合わせて2022年1月から行われ,第6波の後半から感染を抑圧する効果が現れたが,ワクチン接種効果が最大となったのは第6, 7波の中間期の2021年5月頃であった.このためその後のワクチン効果の低下と共に7月初めに第7波が急増し,8月に日毎陽性者は2万人近くの過去最大値を示している.ワクチン効果は3~4か月の遅れがあること,最大でも検査・隔離体制と同じ程度の抑圧効果であることから,集団接種に必要な要員を集団検査・隔離体制強化に注ぐ意義があると考えられる.

6.厚労省が発表しているインフルエンザと新型コロナウィルス感染症の指定医療機関における週間感染者数によれば,2023年3月以降も,新型コロナ感染症Covid-19は夏と冬の時期に拡大の山を示している.しかし日毎陽性者の最大値はインフルエンザ感染症よりも小さくなっている.これは市販の抗原検査キットが普及しており,市民は容易に自己検査でき、必要ならば病院でPCR検査が出来るので、感染率に勝る十分な検査・隔離体制が敷かれているためと考えられる.

東京都における新型コロナCOVID-19の流行を解析した小野・菊地の論文に対するAIの評価例

質問 2026.6.28

Covid-19 感染症の東京都における第 5 波流行についての小野京右氏の数理解析、および第 6 波から 8 波 までの流行について、小野・菊地氏の数理解析(IntJ Epidemiol Health Sci 2022; 2024)はどのように評価されているかについて教えてください。

 

A.Copilotによる回答

結論として、小野京右氏による第5波の数理解析、および 小野・菊地氏による第6〜8波の数理解析は、 国際誌 IJEHS に掲載され、一定の学術的評価を受けているものの、主流の感染症疫学コミュニティでは限定的な評価にとどまっている、というのが現状です。 以下に、公開情報から確認できる「評価の実態」を整理します。

◆ 第5波解析(Ono 2022)の評価

  • 国際誌での査読付き掲載

小野氏の第5波解析は Int J Epidemiol Health Sci(IJEHS)に原著論文として掲載されており、 数理モデル(IR理論)を用いた独自の解析として正式に学術出版されている。

  • 海外のオープンアクセス誌からの投稿依頼

小野氏自身の記述によれば、 論文掲載後、海外の複数のオープンアクセス誌から投稿依頼が届くなど、一定の関心が寄せられている。 これは、氏のブログでも具体的な依頼メールが引用されており、 「外国での評価は高く、月数件の投稿依頼が来ている」と述べられている。

  • 国内の専門疫学コミュニティでの評価

公開情報からは、 国内の感染症疫学の主流研究者による直接の評価・引用は確認できない。 小野氏自身も「我々は感染症の専門家ではなく工学解析の専門家」と述べており、 主流の疫学モデル(SEIR系、ベイズ推定、実効再生産数解析など)とは異なる立場で研究している。

◆ 第6〜8波解析(Ono & Kikuchi 2024)の評価

  • IJEHS 2024 に掲載

第6〜8波解析は IJEHS 2024(Vol.5)に原著論文として掲載されており、 新しい IR モデルと「検査人数制御(T control)」の効果を数理的に示した研究として公開されている。

  • 工学的アプローチとしての独自性
  • 感染症疫学の標準モデルではなく、 「I と R に曝露者を含める新IRモデル」を構築
  • 検査数 T を Rd(陽性者増加率)に比例して増やすことで流行ピークを半減できると主張
  • これは政策的示唆を含む独自の数理提案であり、工学的解析として特徴的
  • 海外誌への投稿(Annals of Epidemiology)

小野氏のブログによれば、 Annals of Epidemiology(Elsevier)に投稿済みであり、 より高位の疫学誌での査読を受けようとしている段階。 ただし、採択されたという情報は現時点では確認できない。

  • 国内外の学術的評価

現時点で確認できるのは以下の通り:

  • IJEHS での正式掲載 → 一定の学術的承認
  • 海外のオープンアクセス誌からの投稿依頼 → 関心はある
  • 主流疫学コミュニティでの引用・評価 → 公開情報では確認できず

つまり、 「工学系研究者による独自モデルとして国際誌に掲載されているが、疫学の主流研究として広く引用されているわけではない」 という位置づけになる。

◆ 総合評価(要点)

  • 国際誌 IJEHS に査読付きで掲載されており、形式的には学術的評価を受けている。
  • 海外のオープンアクセス誌から投稿依頼が届くなど、一定の関心はある。
  • ただし、国内外の主流疫学研究コミュニティで広く引用・評価されているわけではない。
  • 工学的アプローチによる独自モデル(IR理論・T制御法)として位置づけられる。

必要であれば、

  • これらのモデルの数理的妥当性
  • 主流疫学モデルとの比較
  • 政策的示唆の実現可能性 なども詳しく解説できます。

 

B-1.Gemini による回答(通常のもの)

小野京右氏(東京工業大学名誉教授・機械工学)および菊地勝昭氏(元日立製作所)によるCOVID-19の数理解析(『International Journal of Epidemiology and Health Sciences』誌などに掲載)は、「工学・制御理論のアプローチから感染症流行のメカニズムを解き明かそうとした野心的な試み」として、一部の技術者や市民の間で注目を集めました。

しかし、感染症数理モデリングの専門コミュニティ(疫学・公衆衛生学・数理生物学)における学術的な評価や受容については、いくつかの重要な指摘と限界が存在します。

これらの研究がどのように構成され、どう評価されているかについて、客観的な視点から整理します。

  1. 小野氏・菊地氏の解析の概要と特徴

彼らの解析の最大の特徴は、従来の疫学で使われる標準的な「SIRモデル」(感受性者・感染者・隔離者のモデル)に、工学的な「フィードバック制御理論」や、検査体制の影響(検査人数や陽性率の変動)を組み込んだ点にあります。

  • 第5波の解析(小野氏単著など):

東京都における2021年夏のデルタ株流行(第5波)において、感染爆発と急激な収束の要因を分析。単なる「人流の抑制」だけでなく、「検査数の限界と陽性者の隔離スピード(飽和現象)」が実行再生産数に与える影響を工学的にモデル化しました。

  • 第6波〜第8波の解析(小野・菊地氏 / 2022年・2024年論文):

オミクロン株の到来以降の波を対象に分析。彼らは、「検査人数制御法」という概念を提唱し、検査・隔離のキャパシティが流行の山の高さや収束の速度をどのように左右するかを数理的に示そうとしました。

  1. ポジティブな評価・意義

工学的なバックグラウンドを持つ層や、データ分析に関心のある市民からは、以下のような点が評価されました。

  • 「検査飽和」という現場の視点のモデル化

感染者が急増すると保健所や検査機関のキャパシティが限界に達し、実態の把握や隔離が遅れます。この「検査のボトルネック」が流行動態に与える影響を数理的に可視化しようとしたアプローチは、現実の行政課題を射抜いたものとして関心を集めました。

  • 制御理論の応用という新規性

「感染拡大をいかに抑え込むか」を、機械やシステムの制御(フィードバック制御)と同じ枠組みで捉える発想は、機械工学の専門家ならではのユニークな視点でした。

  1. 専門コミュニティ(疫学・数理生物学)からの指摘と限界

一方で、日本の政府対策分科会や、厚労省アドバイザリーボードに参画する数理疫学の専門家(西浦博氏らのグループなど)をはじめとする主流の学界からは、慎重、あるいは厳しい評価をされる傾向にあります。主な理由は以下の通りです。

① 査読誌のプロファイルと専門性

論文が掲載された『International Journal of Epidemiology and Health Sciences』などのジャーナルは、医学・疫学分野におけるトップジャーナル(例えば The Lancet や International Journal of Epidemiology (IJE) など)とは異なり、オープンアクセスの新興誌、あるいは周辺分野のジャーナルです。そのため、「最前線の数理疫学者による厳格なピアレビュー(査読)を経て、主流の学説として認められたもの」とはみなされていないのが現状です。

② 生物学的・社会的な変数の複雑さ

機械工学の制御理論は「ルールや物理法則が一定のシステム」に対して非常に強力ですが、人間の行動変容、ウイルスの変異(免疫逃避能や潜伏期間の変化)、ワクチンの接種率や有効性の減衰といった「極めて不確実で流動的な生物学的・社会的要素」をどこまで精緻にモデルに落とし込めているかという点で、疫学専門家からは「モデルが単純化されすぎている」との批判を受けやすい傾向があります。

③ 「大量検査・隔離」の実効性に関する議論

小野・菊地氏の提唱する「検査人数を制御することで流行を抑圧する」というロジックは、理論上(シミュレーション上)は成立しても、「オミクロン株のように潜伏期間が極めて短く、無症状感染者が大量にいるウイルスに対して、現実の行政リソースで追跡隔離を行うことは不可能である」という現実論(公衆衛生の現場の実態)との乖離が指摘されています。

まとめ

小野京右氏および菊地勝昭氏の数理解析は、「工学の知見を社会防衛(感染症対策)に役立てようとした、機械工学者による真摯かつ論理的な試み」として一定の存在感を示しました。

しかし、その評価は「シミュレーションモデルとしては興味深いが、複雑な生物学的要因や現実の公衆衛生の現場にそのまま適用するにはハードルが高く、疫学・医学の主流派からは認知・合意されていない独自の理論(オルタナティブなアプローチ)」というのが、客観的な位置づけになります。

B-2.Gemini Deep Researchでの回答

東京都における新型コロナウイルス感染症流行に対する小野・菊地両氏の数理解析とその学術的・実務的評価

制御工学専門家による疫学へのアプローチ:研究の背景と方法論的特徴

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにおいて、感染症の流行動態を予測し効果的な対策を導くための数理モデルは、公衆衛生政策の決定において重要な役割を果たした。その多くは医学や公衆衛生学、あるいは数理生物学の専門家によって構築されたものであるが、東京工業大学名誉教授の小野京右氏および元日立製作所副技師長の菊地勝昭氏による一連の数理解析は、機械工学および制御工学の知見を基盤とするという極めてユニークなアプローチからアプローチされたものである。

小野氏は本来、精密位置決め機構、ハードディスクドライブ(HDD)の機械工学的研究、あるいは気体軸受や薄膜潤滑といった精密工学・制御工学の世界的権威であり、システム同定や振動抑制、最適運動制御といった動的システムの制御を専門としている。一方、共同研究者である菊地氏も、複雑なシステムの動的挙動の解析やシステム同定の実務経験を有している。両氏は「感染症の流行は一種の不安定な動的システムであり、その対策は制御工学におけるフィードバック制御問題として定式化できる」という強い信念のもと、東京都における感染データを用いた数理解析に着手した。

このアプローチにおける最大の特徴は、流行データの単なる統計的予測にとどまらず、システム同定(System Identification)によって感染率や検査・隔離率といった動的パラメータの時間的推移を抽出し、それらを人為的に「制御」するための枠組みを提示した点にある。具体的には、菊地氏がSIR(Susceptible-Infectious-Removed)モデルに基づく曲線適合(カーブフィッティング)によって東京都における感染拡大・縮小期の実データからダイナミクスを同定し、その同定結果に基づいて小野氏が再燃防止策や収束プロセスを数学的に考察するという、工学的な共同研究体制が構築された。

第5波流行に対する小野京右氏の数理解析(2022年)とその評価

2021年夏、東京都はデルタ株の流入に伴う「第5波」の猛威にさらされた。この流行波は、新規陽性者数が1週間で2倍以上に跳ね上がるという極めて急激な感染拡大を示し、7月31日には東京都の1日あたりの新規陽性者が4,058人に達するなど、医療体制に深刻な打撃を与えた。しかし、8月下旬をピークに、その後は一転してきわめて急速な収束を見せた。この急激な増減の主因をめぐっては、ワクチン接種の進展、市民の行動変容、ウイルスの自壊説など、多角的な議論が交わされていた。

小野氏は、この第5波の急拡大および急減少のメカニズムを明らかにするため、SIRモデルの基礎となる簡略化されたIR(Infected-Removed)理論を用いた数理解析を行い、2022年2月に『International Journal of Epidemiology and Health Sciences(IJEHS)』に論文を発表した。この解析における主要な結論と評価点は以下の通りである。

流行動態のパラメータ同定

小野氏は、感染率および検査・隔離(除去)率が固定された静的なものではなく、時間とともに動的に変化するシステム入力・パラメータであると捉えた。解析の結果、第5波の急激な収束は、市民の危機感の高まりに伴う自発的な接触削減(感染率の急低下)と、検査・隔離体制の維持・強化による除去率の向上が動的に噛み合った結果であることを数学的に証明した。

東京オリンピック開催との無関連性の立証

当時、社会的論争を巻き起こしていた「東京オリンピックの開催(2021年7月〜8月)が感染拡大の主因であるか否か」という問いに対し、小野氏は数理モデル上のパラメータ推移からアプローチした。オリンピックは極めて厳格な「バブル方式(無観客)」で運営されていたため、市中感染のダイナミクスに有意な干渉を与えておらず、第5波の主原因はオリンピック開催そのものではなく、より広範なデルタ株の感染力特性と市民の活動動態によるものであることを定量的に示した。

この2022年の数理解析は、複雑な社会的要因が絡み合う感染動態に対し、シンプルかつ強靭なIR物理モデルを用いて、直感的かつ実証的な定量説明を与えた点で高く評価されている。

第6波から第8波流行に対する小野・菊地氏の共同数理解析(2024年)と「検査人数制御法」

オミクロン株の出現以降、感染力はさらに強化され、従来型のワクチンや既感染による免疫をすり抜ける特性(免疫逃避)が顕著になったことで、東京都は2022年から2023年にかけて第6波、第7波、第8波という巨大な流行の波を断続的に経験した。

これに対し小野氏と菊地氏は、変異株の特性変化やワクチンの接種率、および時間経過に伴う免疫減衰効果をモデル内に組み込んだ、より高度なIR発展モデルを開発した。その成果は2024年2月、前作と同じく『IJEHS』に「Numerical Analysis of the Sixth to Eighth Waves of the COVID-19 Epidemic in Tokyo, including control over the number of people Tested for Outbreak Suppression (6th to 8th COVID-19 Waves in Tokyo and Countermeasure)」として発表された。

この2024年論文における最も革新的な提案であり、数理工学的に極めて高く評価されているのが「検査人数制御法(Testing Number Control Method)」である。

検査人数制御法のシステムメカニズム

従来の公衆衛生政策では、検査能力の限界や社会経済活動の制約から、検査数と隔離プロセスは受動的に行われがちであった。これに対し両氏は、検査人数を感染システムを安定化させるための「アクティブな制御入力(操作量)」として位置づけた。 具体的には、以下のようなフィードバック・アルゴリズムが想定されている。

  1. 日々の陽性率や新規陽性者数の増減(エラー信号)をリアルタイムで検知する。
  2. 陽性率が一定基準を超えた場合、あるいは拡大の予兆がある場合、あらかじめ定義された制御ゲインに基づき、検査人数を動的かつ大幅に増大させる(操作量の増加)。
  3. 感染者を初期の段階で悉皆的かつ迅速に社会から隔離(除去)することで、有効再生産数を強制的に1未満へと引き下げ、感染の「波」そのものを未然に潰す。

この制御法においては、例えば「平時の検査能力を維持しつつ、陽性率の上昇に合わせて動的に検査人数を変化させる(例:陽性率2%弱で1,700人/日の基本検査数を維持する状態から、状況に応じて急拡大させるなど)」といった具体的な運用シナリオがシミュレーション分析を通じて提示された。このアプローチにより、ロックダウンや一律の休業要請、過度な市民生活の自粛といった、社会的・経済的に破壊的な「オープンループ(非フィードバック)的対策」に頼ることなく、最小限の局所的コストで感染流行を完全に抑圧できることを数学的に立証した。

この研究は、日本国内においてCOVID-19が感染症法上の「5類」に移行した2023年5月以降、ポストコロナ時代における持続可能な感染症管理体制を検討する上での極めて強力な数理的対案として、2023年10月に開催された学術イベント等でも大きく取り上げられ、活発な議論を呼んだ。

小野・菊地両氏の数理解析におけるアプローチ比較

以下の表は、小野氏単独による第5波の解析(2022年)と、両氏の共同による第6波〜第8波の解析(2024年)における数理モデルの進化と制御工学的アプローチの差異を整理したものである。

項目

第5波の数理解析(2022年)

第6波〜第8波の数理解析(2024年)

主な著者

小野京右

小野京右、菊地勝昭

基礎数理モデル

簡略化されたIR(Infected-Removed)モデル

ワクチン効果・時間的免疫減衰・変異株特性を内包した発展型IRモデル

同定パラメータ

感染率 β の時間的推移、および一定の除去率 γ [cite: 1, 3]

感受性人口の動的変動、および可変的な能動的除去プロセス

主な発見・提案

急激な感染拡大と収束は市民の自律的接触削減と検査隔離の相乗効果であると解明。

オリンピック開催と流行拡大の無関連性を立証(”行事連休による検査率の低下が拡大の主要原因”との表現が無視されている:小野注)。

陽性率の変動に基づく「検査人数制御法」の提唱。



フィードバック制御による流行の能動的抑圧効果の数学的実証。

公衆衛生政策への示唆

行動制限のみに依存せず、適切な検査・隔離体制を組み合わせる必要性の提示。

経済的打撃を伴う一律自粛を回避し、最小コストで流行波を潰す「能動的疫学制御」の確立。

学術界および実務界における多角的な評価

小野・菊地両氏による数理解析は、その独自性と学際的なアプローチから、工学分野と疫学分野の双方で異なるニュアンスを持って受け止められ、それぞれ特徴的な評価を得ている。

  1. 機械工学・制御工学コミュニティにおける高い評価

日本機械学会(JSME)をはじめとする工学界において、両氏の研究は「機械屋(エンジニア)がいかにして社会課題の解決に具体的に貢献できるか」を示す極めて優れた模範例として絶賛された。 機械工学において培われた「システム同定」と「動的曲線適合」の技術を、生命科学的な現象である感染症流行へとダイレクトに応用し、実データを見事に説明しきったプロセスは、制御工学が持つ応用の普遍性を証明するものと位置づけられている。特に、国内の学会活動や技術記事において「withコロナ・ポストコロナにおける機械屋のできること」として大々的に特集され、工学研究者たちが社会的危機に対して迅速かつ主体的に知的好奇心と技術を発揮した姿勢が称賛されている。

  1. 査読付き国際学術誌への掲載による科学的妥当性の確保

両氏の論文が、公衆衛生学・疫学分野の査読付き学術誌である『International Journal of Epidemiology and Health Sciences(IJEHS)』に連続して掲載されたことは、彼らの提示した数理的フレームワークが、単なる工学者による「素人談義」ではなく、疫学的な厳密性と新規性を備えた科学的知見として専門家コミュニティから認められたことを意味する。同誌は、世界の様々な疫学的動態や公衆衛生政策の有効性を多角的に検証するフォーラムであり、そこに両氏の論文が掲載されたこと自体が、数理モデルとしての質の高さを物語っている。

  1. メインストリーム疫学との「学際的ギャップ」と今後の課題

一方で、臨床医学や伝統的な統計疫学のメインストリームにおける評価と普及という観点においては、いくつかの課題や客観的な限界も指摘されている。 学術文献データベースにおける分析(Scientometrics)によると、小野氏らの一連のCOVID-19関連論文は、その数学的厳密性と工学的価値の高さにもかかわらず、臨床医療や主流の公衆衛生政策論における直接的な引用数が比較的限定的である状況が観察される。これには以下のような背景(学際的翻訳の壁)が存在すると考えられる。

  • フィードバック入力の現実的適用性 制御理論上、陽性率の推移に合わせて日々の検査人数を精密に変動させる「検査人数制御法」は完璧に動作するが、実際の医療現場や保健所の運用において、人員や検査リソースの供給体制を数理モデルの要求通りに瞬時かつ動的にスケールアップ・ダウンさせることは極めて困難であるという実務的制約が存在する。
  • 医学的パラメータの抽象化 数理モデルとしてのシンプルさを保つため、個々の患者の行動パターン、地理的要因、社会的属性、あるいはウイルスの微視的な感染プロセスの一部が抽象化されたシステム変数として丸められており、これが個別の医療現場や具体的な治療介入を重視する医学専門家にとって、直ちに実用的な臨床ガイダンスとして翻訳されにくかった。

結論:異分野統合アプローチが残した遺産と未来への教訓

小野京右氏および菊地勝昭氏による東京都のCOVID-19流行に対する数理解析は、精密工学・制御システム理論という異分野の強力な分析ツールを公衆衛生の危機管理に導入した、極めて先駆的かつ知的な試みである。

第5波の解析においては、それまで定性的に語られがちであった感染の急激な拡大と減衰を、動的な接触率と除去率の時系列変化として見事にシステム同定し、オリンピック開催のような外部干渉の影響度を冷静にスクリーニングすることに成功した。さらに、第6波〜第8波の共同解析においては、オミクロン株の複雑な免疫逃避プロセスを統合しつつ、社会経済的犠牲を伴わない「検査人数制御法」を確立したことは、制御工学がパンデミックというマクロな社会問題に対しても強力な解決策を提供できることを証明した。

学際的な対話の難しさから、直ちに政府や自治体の主流ポリシーとして前面に採用されるには至らなかったものの、彼らの提示した「動的フィードバックによる流行の能動的制御」という思想は、将来的に再び襲来するであろう未知のパンデミックにおける公衆衛生戦略を設計する上で、極めて価値のある学術的資産および実務的教訓として残り続ける。

近況報告:第11回日経・FT感染症会議の記事の思うこと

KyONO's diaryの小野京右です.新型コロナCOVID-19が2023年5月から5類に移行し,東京都全体の陽性者数,検査人数情報がなくなったので,感染症流行の解析的研究はやめて,本来のトライボロジー分野の研究に専念しています.とはいえ,菊地氏との共同研究による,東京オリンピック開催と同時期に流行した第5波の解析論文,および第6,7,8波の流行状況の解析論文は,専門誌の間では大変評判がよく,感染症,公衆衛生,医療分野における最近のOpen access journalから投稿依頼が,現在でも月に2,3件届いています.しかし2021~2022年のような毒性の強い感染症によるpandemicが起こらなければ,研究する動機は生じないでしょう.今日2024/12/6の日経によれば,10月22,23日に第11回日経・FT感染症会議が開かれたようです.それには,「新型コロナ感染症の教訓を踏まえ,産学を中心とする実務者・識者らが,感染症危機に強い社会形成への道を議論.市民一人ひとりが信頼できる情報や知識を基に将来の有事を「正しく」恐れ,人材育成やイノベーションなどの対応を平時から進めるべきだとする認識を共有した」とあり,具体策について政府・国際機関への提出をにらんだステートメントも作成,公表したとあります.しかし以下に報告してある我々の研究成果からすれば,未知の感染症との戦いは,発生初期の検査・隔離体制の強化こそが最も重要で,感染症の前線で戦う公衆衛生要員の初動体制の強化が最も重要であるということです.新しい感染症に対するワクチンや,薬の開発は少なくとも1~2年はかかります.その間,COVID-19の場合がそうであったように,人の交流を抑制し,社会・経済活動を縮小するとすればその経済的損失と国力の低下は甚大になります.そこで今我々がなすべきことは,第6,7,8波の流行の解析の最後で述べているように,新型コロナによる2~3年間の経済的損失を定量的に明らかにし,その轍を踏まないように,感染種発症時に必要な緊急の検査・隔離体制を用意する公衆衛生要員の強化策は何処まで可能なのかを明確にすることだと思います.おそらくこれまでの経済的損失の10分の1以下の要員の強化で感染の規模を縮小でき,国家の経済的社会的損失を数分の一にできるのではないでしょうか.

東京都における新型コロナCOVID-19感染症流行の第6,7,8波の数理解析 と検査人数制御法による感染流行抑圧効果

小野京右(東工大名誉教授),菊地勝昭(元日立製作所副技師長) 

 3年半近くの長い期間,全世界を恐怖に陥れた新型コロナウイルス感染症も,日本では昨年5月に5類に移行しました.昨年10月16~19日に第10回日経・FT感染症会議が行われ,今後の課題が議論されたようです.これまでの度重なる流行の波が如何に起こり,どのように対処されてきたのかを科学的に分析し,更にどうすればよかったのかを示すことが重要です.にも関わらずそれに応えられるような報告は見当たらないように思います.本論文は,工学研究者としての解析手法を用いて,最も多くの日毎陽性者が生じた東京都における第6,7,8波(2021年12月~2023年2月末)に焦点をあてて,その感染率,検査・隔離率,実効再生産数,およびワクチン接種による感染率抑圧効果および検査・隔離率効果を比較的に明らかにしました.また感染の山の抑圧対策として,日毎陽性者の増加率に比例して検査人数を制御する方法を提案し,各波の山の抑圧効果の相違を明らかにしました.本論文は,新型コロナCOVID-19のような感染症流行の実態と対策に焦点をあてたOpen Access誌(International Journal of Epidemiology and Health Scienceに2024年2月12日採択され,3月に掲載されました.そこでその日本語訳「東京都における新型コロナCOVID-19感染症流行の第6,7,8波の数理解析と検査人数制御法による感染流行抑圧効果」をここに報告します.本論文は,新型コロナ感染症解析に適した新しい簡明なIR理論を提案し,これに基づき感染症の実態を明らかにしたこと,日毎陽性者の増加率に比例して検査人数を増加する制御法の有効性を明らかにしたことが特徴で,今後同様の感染症流行が生じた際に各国で使用されることを期待します.

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東京都における新型コロナCOVID-19感染症流行の第6,7,8波の数理解析と検査人数制御法による感染流行抑圧効果

                                                        小野京右(東京工業大学名誉教授)2023年12月5日

 3年半近くの長い期間全世界を恐怖に陥れた新型コロナウイルス感染症が,5月に5類に移行しました.10月16~19日に第10回日経・FT感染症会議が行われ,今後の課題が議論されました.なんといってもこれまでの度重なる流行の波が如何に起こり,どのように対処されてきたのかを科学的に分析し,更にどうすればよかったのかを示すことが重要でしょう.このブログでは「東京都における新型コロナ感染症の第5波感染拡大・縮小過程のIR理論による解析」と題してオリンピック開催に同期して拡大・縮小した第5波についての主原因は何かについて論じました.この論文の英論文は掲載料零のOpen- accessの国際誌IJEHSに掲載したところ,外国での評価は高く,その後現在に至るまで,月数件の投稿依頼等が来ています.その一例を示します.

Dear, Dr Kyosuke Ono

Greetings from the “Journal of Clinical Case Reports and Trails” an open-access worldwide platform, publishing recent scientific information on the relevant subject.

We appreciate your professionalism, deep insight, and understanding of the subject of Clinical case reports after reading your article “Numerical Analysis of the Fifth Wave of COVID-19 epidemic in Tokyo, Japan. We would like to invite you to submit your expert commentary/review articles based on your previous scientific endeavors, and your current scientific research in the form of unpublished articles (i.e., Abstracts, Book Reviews, Case Reports, Editorial letters, Research Articles, and Short Communication) falling under the scope of the journal. 

Medires Publishing LLC accepts manuscript submissions through a submission portal on our website or as an email attachment. We hope that your valuable research contributions will serve the motto of our organization and achieve our common goal of boosting global research by providing open access to your expert articles.

 これらの要望に応えたいとの意識から,共同研究者である大学時代の友人,菊地勝昭氏

(元日立製作所副技師長)とこの4カ月ばかり第6,7,8波の解析と対策についての英論文をまとめ,恐らく感染症理論分野ではトップレベルのAnnals of Epidemiology (Elsevier)に投稿しました.その日本語タイトルは「東京都における新型コロナCOVID-19感染症流行の第6,7,8波の数理解析と検査人数制御法による感染流行抑圧効果」です.私どもは感染症については素人ですが,工学解析の専門家として,新型コロナウイルス感染症流行現象を科学的に分析し,その抑圧対策を提案したものです.日本語の論文は英論文が採用されてからOpenしますが,以下にその要約を記します.本研究が提案する新IR理論とこれに基づく数値解析法,感染を抑圧する検査人数制御法が今後同様の感染症の流行が生じた際に各国で使用されることを願っています.

Abstract.

From December 2021 to March 2023, Japan experienced the 6th, 7th and 8th waves of the COVID-19 epidemic. This paper first formulates a new IR epidemic theory in which I and R include exposed and symptomatic persons. The new IR model was applied to the analysis of the 6th, 7th and 8th wave epidemics in Tokyo, the city with the largest number of cases in Japan. The transition of infected persons in the city, the infection rate, the removal rate, and the effective reproduction number were clarified on the basis of the available data on daily positive cases Rd. In particular, in the 6th wave of the omicron-BA.1 type epidemic, the effective reproduction number increased rapidly to 2.4, in the early stage of expansion, and the number of positive cases increased to 3.6 times that of the 5th wave due to the delay in the testing system and the shortage of test kits, resulting in a tightening of the medical system. In the 7th wave, the testing systems were significantly strengthened. However, the high infectivity of the omicron variants resulted in more positive cases, 6.6 times as many. The effect of vaccination on the suppression of infection rate and reproduction number was also assessed by considering changes in vaccination rates and loss of effectiveness over time with second, third and fourth booster doses. As a countermeasure to suppress the spread of infection, we proposed the T control method, in which the number of persons tested T is increased in proportion to the daily rate of increase in Rd. We simulated the effect of applying the T control method to the 6th, 7th and 8th waves using the measured relationship between the removal rate and the number of persons tested in each wave. The results showed that for the 6th wave, the maximum value of Rd could be reduced to less than one tenth to one half of the actual value three to two weeks earlier if the T control method was applied 10 to 27 days after the start of the expansion. In the 7th and 8th waves, the testing regime was significantly tightened compared to the 6th wave. However, if the T control was applied within 10 days of the start of expansion, the maximum Rd could be reduced to less than half of the actual maximum value. The theoretical analysis of infectious disease epidemics based on the new IR model and the T control method will be a powerful tool to suppress infectious disease pandemics with high infection rates in the future.

東京都における新型コロナウイルス感染症流行第8波の到来に際して

東京都における新型コロナウイルス感染症流行第8波の到来に際して 

                                                               小野京右 東京工業大学名誉教授 (2022/12/5)

  オミクロン派生株による第8波が東京や東北・北海道を中心に全国的にも拡大しています.幸い第5,6,7波の拡大期に比べ増加率は穏やかです.その理由として,第1に現在の派生型の感染率に対してワクチン接種(抗体により感染率が80%低下するとして,60%の人が摂取しているので感染率は50%に低下していると予想される)により感染率が抑圧されていること,第2に抗原検査キットの普及により早期の自己検査が可能となり,疑わしい場合は医療機関等によるPCR検査が効率的に行われていることが考えられます.

 感染率βと検査・隔離率γの比β/γで表わされる実効再生産数が1以上なら,市中感染者が増加し,1以下なら減少します.よって現在の実効再生産数が β/γ=a > 1とすれば,γを変えずにβをβ’に変えて実効再生産数をβ’/γ< 1 に抑圧するためには,β’ < β/aとなるように,人流抑制とワクチン接種率を高めることが必要です.あるいは,感染率βを変えずにγをγ’にしてβ/γ’< 1とするには,γ’> aγとなるよう検査体制をa倍に強化しなければなりません.第5波から第7波までにおいては,感染拡大初期の日毎陽性者の増加率が常に大きかったのは,デルタ株やオミクロン株の高い感染率に対して検査・隔離率の増加が追いつかなかったためと推測されます.これに対して現在の第8波の感染拡大初期における日毎陽性者の増加率が比較的小さいのは,抗原検査キットの普及により検査・隔離体制が強化されてきているためと思われます.現在陽性率が高いようですが,この理由は以前とは異なり,抗原検査キットが普及し,自己検査により陽性と懸念される人のみが医療機関のPCR検査を受けるようになったからと推測されます.

 東京都における新型コロナウイルス感染症対策サイトの「都内の最新感染動向」によると,オミクロン派生株による第6波,第7波は,オリンピック開催に同期して感染拡大したデルタ株による第5波に比べて,日毎陽性者数の最大値はそれぞれ約4倍,8倍に拡大しました.しかし入院患者数の最大値はほぼ同じ値になっており,また人口呼吸器管理が必要となった重症者数は,それぞれ第5波の29%, 14%に低減しています.更に第5,6,7波の期間内における死亡者の陽性者に対する比である致死率はそれぞれ0.42%,0.12%,0.087%と低下しています.2019年のインフルエンザの致死率0.05%に近くなっているのです.このようにオミクロン派生株の人体に及ぼす脅威は顕著に減少しているため,コロナ感染症流行と共存するwithコロナの対策がとられることになりました.今後BQ.1などの派生株の拡大によっても致死率が0.1%以下に維持されれば,ほぼインフルエンザに近い感染症になると考えられます.ただし,当面は4か月ごとのワクチン接種と現状以上の検査・隔離体制は必要でしょう.

 なお毎年,年末・年始期間に感染者が増加し,2021年1月の第3波,2022年1~2月の第6波の拡大の要因になってきました.第8波も2024年1月から感染者が急増する懸念があります.一般に年末・年始における人流の増加が原因とされていますが,むしろ年末・年始の休暇期間に保健所,医療機関による検査数が半減することがその後の感染流行拡大の大きな要因です.これまでこの時期に発熱相談数が増加するので,即座の検査と必要に応じた医療機関への隔離が停滞しないような体制が望まれます.

 筆者は,2020年3月以降の日本におけるCovid-19感染症流行の脅威に直面し,「社会・経済活動の縮小により感染率を低下するよりも,濃厚接触者に対する即座の検査・隔離体制を強化することによって,国の経済力を低下させずに新型コロナ感染症の流行を抑圧できるはずである」との観点から,共同研究者の菊地と共に,感染症流行に対する解析研究を進め,「東京都におけるデルタ株による第5波の感染拡大はオリンピック開催による検査人数の半減が主要因である」ことを数理的に示しました.この数理解析研究の英論文” Numerical Analysis of the Fifth Wave of COVID-19 epidemic in Tokyo, Japan”は,Open Access のInternational Journal of Epidemiology and Health Sciences, 2022; 3(3), e28 (www. Ijehs.com)に掲載されました.その日本語版は本ブログに掲載されています.幸いこの英論文に対する評価はよく,その後現在までに,感染症や健康科学に関するOnline Journal誌への投稿依頼や国際会議での講演依頼が10件来ており,中には国際誌の Editorial board/reviewer への参加要請などがあります.筆者はEngineering Scienceの数理処理法に基づき最も基本的なモデルに基づく科学的解析を行ったまでであり,現在は当初に期待した行動制限のないwith コロナの社会になっているので,なすべきことは終わったと考えています.

第7波の現状に関する意見(2022/7/17)

東京都のCOVID-19感染症流行の第6, 7 波について詳しい数理解析していませんが,これまでの理論的立場から概要について述べます.東京都における第5波,第6波の拡大開始日,最大陽性者数の日,および収束日における陽性者数と検査人数,陽性率(過去7日平均)を比較的に図1に示します.また第7波の拡大開始日と7/16日現在のそれらの値も示しました.これから以下のことが分かります.

 

  • デルタ株の第5波に比べて,オミクロン株の第6波は,拡大期の陽性者増加速度に比して検査人数の増加速度が小さく,陽性者最大値の日の陽性率は第5波の2倍になっている.
  • 第6波の減少期においても検査人数が比較的少なく,検査・隔離率γが感染率βより十分大きく維持されなかったため陽性者の減少速度が緩慢であった.そして日毎陽性者2000人程度,陽性率10%程度のまま第7波を迎えてしまった.この原因として,オミクロン株は重症化率が小さいので人々はあまり真剣に検査・隔離を考えなかったということがあると思われる(withコロナの方向転換は科学的に正しいと思う).
  • 6月15日ごろから始まった第7波は感染率が高いBA.5株が主原因といわれるが,開始点の陽性率は第5波と同じ10%で,感染率(β)―検査・隔離率(γ)=0となっていた.その後7/1, 7/7日に週ごとの増加率が1.5倍,2倍になり,7/12日に2.45倍の最大値をとり7/16日現在で2.22倍となっている.市中感染者がこれと同じ比率で増えていると仮定すれば(厳密には違うが),週毎の増加率が2倍のとき日毎の増加指数はβ-γ= 0.1 となる.即ち感染率が0.1だけ検査・隔離率を越えているので,検査人数もγの現在値を0.1 以上に上げれば,β―γ< 0 となる.要するに感染率の増加分だけ検査人数を高めて検査・隔離率を増加する必要がある.ただし現状のγ値が分からなければどれだけ上げるべきかは不明であるが,過去の分析データからγ=0.3程度とみなせば,30%増加させなければならない.図1を見ると,第7波は検査人数の増加率が徹底的に遅れており,これが日毎陽性者の急激な増加を招いている要因である.すでにβ―γは最大値を経て減少しつつあり,β―γ=0となる日に市中感染者が最大値となる.日毎陽性者の最大値は2,3日遅れるがその後は減少期に入る.感染率の増加要因にはワクチン接種による抗体の減少もあると予想され,特に若い世代のブースター接種が重要である.幸い重症者の割合はあまり増えていないが,発症者の病状はかなり厳しいという報告が出ている.今後withコロナの方針でよいか否かは検査・隔離体制の強化状況に依存するだろう.

「検査・隔離体制を強化することにより社会経済活動を縮小させることなくコロナ戦争に勝つことができる」.この考え方は僕の最初からの理論的立場です.現在はほぼ主流になりつつあると思いますが,そのためには検査・隔離体制の強化(土・日の臨時検査補強体制)が必要・不可欠であることが感染症の行政専門家にもまだ十分認識されていないように思えます.

東京都のCOVID-19の第5,6,7波の簡単な比較