東京都における新型コロナCOVID-19感染症流行の第6,7,8波の数理解析 と検査人数制御法による感染流行抑圧効果

小野京右(東工大名誉教授),菊地勝昭(元日立製作所副技師長) 

 3年半近くの長い期間,全世界を恐怖に陥れた新型コロナウイルス感染症も,日本では昨年5月に5類に移行しました.昨年10月16~19日に第10回日経・FT感染症会議が行われ,今後の課題が議論されたようです.これまでの度重なる流行の波が如何に起こり,どのように対処されてきたのかを科学的に分析し,更にどうすればよかったのかを示すことが重要です.にも関わらずそれに応えられるような報告は見当たらないように思います.本論文は,工学研究者としての解析手法を用いて,最も多くの日毎陽性者が生じた東京都における第6,7,8波(2021年12月~2023年2月末)に焦点をあてて,その感染率,検査・隔離率,実効再生産数,およびワクチン接種による感染率抑圧効果および検査・隔離率効果を比較的に明らかにしました.また感染の山の抑圧対策として,日毎陽性者の増加率に比例して検査人数を制御する方法を提案し,各波の山の抑圧効果の相違を明らかにしました.本論文は,新型コロナCOVID-19のような感染症流行の実態と対策に焦点をあてたOpen Access誌(International Journal of Epidemiology and Health Scienceに2024年2月12日採択され,3月に掲載されました.そこでその日本語訳「東京都における新型コロナCOVID-19感染症流行の第6,7,8波の数理解析と検査人数制御法による感染流行抑圧効果」をここに報告します.本論文は,新型コロナ感染症解析に適した新しい簡明なIR理論を提案し,これに基づき感染症の実態を明らかにしたこと,日毎陽性者の増加率に比例して検査人数を増加する制御法の有効性を明らかにしたことが特徴で,今後同様の感染症流行が生じた際に各国で使用されることを期待します.

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東京都における新型コロナCOVID-19感染症流行の第6,7,8波の数理解析と検査人数制御法による感染流行抑圧効果

                                                        小野京右(東京工業大学名誉教授)2023年12月5日

 3年半近くの長い期間全世界を恐怖に陥れた新型コロナウイルス感染症が,5月に5類に移行しました.10月16~19日に第10回日経・FT感染症会議が行われ,今後の課題が議論されました.なんといってもこれまでの度重なる流行の波が如何に起こり,どのように対処されてきたのかを科学的に分析し,更にどうすればよかったのかを示すことが重要でしょう.このブログでは「東京都における新型コロナ感染症の第5波感染拡大・縮小過程のIR理論による解析」と題してオリンピック開催に同期して拡大・縮小した第5波についての主原因は何かについて論じました.この論文の英論文は掲載料零のOpen- accessの国際誌IJEHSに掲載したところ,外国での評価は高く,その後現在に至るまで,月数件の投稿依頼等が来ています.その一例を示します.

Dear, Dr Kyosuke Ono

Greetings from the “Journal of Clinical Case Reports and Trailsan open-access worldwide platform, publishing recent scientific information on the relevant subject.

We appreciate your professionalism, deep insight, and understanding of the subject of Clinical case reports after reading your article “Numerical Analysis of the Fifth Wave of COVID-19 epidemic in Tokyo, Japan. We would like to invite you to submit your expert commentary/review articles based on your previous scientific endeavors, and your current scientific research in the form of unpublished articles (i.e., Abstracts, Book Reviews, Case Reports, Editorial letters, Research Articles, and Short Communication) falling under the scope of the journal. 

Medires Publishing LLC accepts manuscript submissions through a submission portal on our website or as an email attachment. We hope that your valuable research contributions will serve the motto of our organization and achieve our common goal of boosting global research by providing open access to your expert articles.

 これらの要望に応えたいとの意識から,共同研究者である大学時代の友人,菊地勝昭氏

(元日立製作所副技師長)とこの4カ月ばかり第6,7,8波の解析と対策についての英論文をまとめ,恐らく感染症理論分野ではトップレベルのAnnals of Epidemiology (Elsevier)に投稿しました.その日本語タイトルは「東京都における新型コロナCOVID-19感染症流行の第6,7,8波の数理解析と検査人数制御法による感染流行抑圧効果」です.私どもは感染症については素人ですが,工学解析の専門家として,新型コロナウイルス感染症流行現象を科学的に分析し,その抑圧対策を提案したものです.日本語の論文は英論文が採用されてからOpenしますが,以下にその要約を記します.本研究が提案する新IR理論とこれに基づく数値解析法,感染を抑圧する検査人数制御法が今後同様の感染症の流行が生じた際に各国で使用されることを願っています.

Abstract.

From December 2021 to March 2023, Japan experienced the 6th, 7th and 8th waves of the COVID-19 epidemic. This paper first formulates a new IR epidemic theory in which I and R include exposed and symptomatic persons. The new IR model was applied to the analysis of the 6th, 7th and 8th wave epidemics in Tokyo, the city with the largest number of cases in Japan. The transition of infected persons in the city, the infection rate, the removal rate, and the effective reproduction number were clarified on the basis of the available data on daily positive cases Rd. In particular, in the 6th wave of the omicron-BA.1 type epidemic, the effective reproduction number increased rapidly to 2.4, in the early stage of expansion, and the number of positive cases increased to 3.6 times that of the 5th wave due to the delay in the testing system and the shortage of test kits, resulting in a tightening of the medical system. In the 7th wave, the testing systems were significantly strengthened. However, the high infectivity of the omicron variants resulted in more positive cases, 6.6 times as many. The effect of vaccination on the suppression of infection rate and reproduction number was also assessed by considering changes in vaccination rates and loss of effectiveness over time with second, third and fourth booster doses. As a countermeasure to suppress the spread of infection, we proposed the T control method, in which the number of persons tested T is increased in proportion to the daily rate of increase in Rd. We simulated the effect of applying the T control method to the 6th, 7th and 8th waves using the measured relationship between the removal rate and the number of persons tested in each wave. The results showed that for the 6th wave, the maximum value of Rd could be reduced to less than one tenth to one half of the actual value three to two weeks earlier if the T control method was applied 10 to 27 days after the start of the expansion. In the 7th and 8th waves, the testing regime was significantly tightened compared to the 6th wave. However, if the T control was applied within 10 days of the start of expansion, the maximum Rd could be reduced to less than half of the actual maximum value. The theoretical analysis of infectious disease epidemics based on the new IR model and the T control method will be a powerful tool to suppress infectious disease pandemics with high infection rates in the future.

東京都における新型コロナウイルス感染症流行第8波の到来に際して

東京都における新型コロナウイルス感染症流行第8波の到来に際して 

                                                               小野京右 東京工業大学名誉教授 (2022/12/5)

  オミクロン派生株による第8波が東京や東北・北海道を中心に全国的にも拡大しています.幸い第5,6,7波の拡大期に比べ増加率は穏やかです.その理由として,第1に現在の派生型の感染率に対してワクチン接種(抗体により感染率が80%低下するとして,60%の人が摂取しているので感染率は50%に低下していると予想される)により感染率が抑圧されていること,第2に抗原検査キットの普及により早期の自己検査が可能となり,疑わしい場合は医療機関等によるPCR検査が効率的に行われていることが考えられます.

 感染率βと検査・隔離率γの比β/γで表わされる実効再生産数が1以上なら,市中感染者が増加し,1以下なら減少します.よって現在の実効再生産数が β/γ=a > 1とすれば,γを変えずにβをβ’に変えて実効再生産数をβ’/γ< 1 に抑圧するためには,β’ < β/aとなるように,人流抑制とワクチン接種率を高めることが必要です.あるいは,感染率βを変えずにγをγ’にしてβ/γ’< 1とするには,γ’> aγとなるよう検査体制をa倍に強化しなければなりません.第5波から第7波までにおいては,感染拡大初期の日毎陽性者の増加率が常に大きかったのは,デルタ株やオミクロン株の高い感染率に対して検査・隔離率の増加が追いつかなかったためと推測されます.これに対して現在の第8波の感染拡大初期における日毎陽性者の増加率が比較的小さいのは,抗原検査キットの普及により検査・隔離体制が強化されてきているためと思われます.現在陽性率が高いようですが,この理由は以前とは異なり,抗原検査キットが普及し,自己検査により陽性と懸念される人のみが医療機関PCR検査を受けるようになったからと推測されます.

 東京都における新型コロナウイルス感染症対策サイトの「都内の最新感染動向」によると,オミクロン派生株による第6波,第7波は,オリンピック開催に同期して感染拡大したデルタ株による第5波に比べて,日毎陽性者数の最大値はそれぞれ約4倍,8倍に拡大しました.しかし入院患者数の最大値はほぼ同じ値になっており,また人口呼吸器管理が必要となった重症者数は,それぞれ第5波の29%, 14%に低減しています.更に第5,6,7波の期間内における死亡者の陽性者に対する比である致死率はそれぞれ0.42%,0.12%,0.087%と低下しています.2019年のインフルエンザの致死率0.05%に近くなっているのです.このようにオミクロン派生株の人体に及ぼす脅威は顕著に減少しているため,コロナ感染症流行と共存するwithコロナの対策がとられることになりました.今後BQ.1などの派生株の拡大によっても致死率が0.1%以下に維持されれば,ほぼインフルエンザに近い感染症になると考えられます.ただし,当面は4か月ごとのワクチン接種と現状以上の検査・隔離体制は必要でしょう.

 なお毎年,年末・年始期間に感染者が増加し,2021年1月の第3波,2022年1~2月の第6波の拡大の要因になってきました.第8波も2024年1月から感染者が急増する懸念があります.一般に年末・年始における人流の増加が原因とされていますが,むしろ年末・年始の休暇期間に保健所,医療機関による検査数が半減することがその後の感染流行拡大の大きな要因です.これまでこの時期に発熱相談数が増加するので,即座の検査と必要に応じた医療機関への隔離が停滞しないような体制が望まれます.

 筆者は,2020年3月以降の日本におけるCovid-19感染症流行の脅威に直面し,「社会・経済活動の縮小により感染率を低下するよりも,濃厚接触者に対する即座の検査・隔離体制を強化することによって,国の経済力を低下させずに新型コロナ感染症の流行を抑圧できるはずである」との観点から,共同研究者の菊地と共に,感染症流行に対する解析研究を進め,「東京都におけるデルタ株による第5波の感染拡大はオリンピック開催による検査人数の半減が主要因である」ことを数理的に示しました.この数理解析研究の英論文” Numerical Analysis of the Fifth Wave of COVID-19 epidemic in Tokyo, Japan”は,Open Access のInternational Journal of Epidemiology and Health Sciences, 2022; 3(3), e28 (www. Ijehs.com)に掲載されました.その日本語版は本ブログに掲載されています.幸いこの英論文に対する評価はよく,その後現在までに,感染症や健康科学に関するOnline Journal誌への投稿依頼や国際会議での講演依頼が10件来ており,中には国際誌の Editorial board/reviewer への参加要請などがあります.筆者はEngineering Scienceの数理処理法に基づき最も基本的なモデルに基づく科学的解析を行ったまでであり,現在は当初に期待した行動制限のないwith コロナの社会になっているので,なすべきことは終わったと考えています.

第7波の現状に関する意見(2022/7/17)

東京都のCOVID-19感染症流行の第6, 7 波について詳しい数理解析していませんが,これまでの理論的立場から概要について述べます.東京都における第5波,第6波の拡大開始日,最大陽性者数の日,および収束日における陽性者数と検査人数,陽性率(過去7日平均)を比較的に図1に示します.また第7波の拡大開始日と7/16日現在のそれらの値も示しました.これから以下のことが分かります.

 

  • デルタ株の第5波に比べて,オミクロン株の第6波は,拡大期の陽性者増加速度に比して検査人数の増加速度が小さく,陽性者最大値の日の陽性率は第5波の2倍になっている.
  • 第6波の減少期においても検査人数が比較的少なく,検査・隔離率γが感染率βより十分大きく維持されなかったため陽性者の減少速度が緩慢であった.そして日毎陽性者2000人程度,陽性率10%程度のまま第7波を迎えてしまった.この原因として,オミクロン株は重症化率が小さいので人々はあまり真剣に検査・隔離を考えなかったということがあると思われる(withコロナの方向転換は科学的に正しいと思う).
  • 6月15日ごろから始まった第7波は感染率が高いBA.5株が主原因といわれるが,開始点の陽性率は第5波と同じ10%で,感染率(β)―検査・隔離率(γ)=0となっていた.その後7/1, 7/7日に週ごとの増加率が1.5倍,2倍になり,7/12日に2.45倍の最大値をとり7/16日現在で2.22倍となっている.市中感染者がこれと同じ比率で増えていると仮定すれば(厳密には違うが),週毎の増加率が2倍のとき日毎の増加指数はβ-γ= 0.1 となる.即ち感染率が0.1だけ検査・隔離率を越えているので,検査人数もγの現在値を0.1 以上に上げれば,β―γ< 0 となる.要するに感染率の増加分だけ検査人数を高めて検査・隔離率を増加する必要がある.ただし現状のγ値が分からなければどれだけ上げるべきかは不明であるが,過去の分析データからγ=0.3程度とみなせば,30%増加させなければならない.図1を見ると,第7波は検査人数の増加率が徹底的に遅れており,これが日毎陽性者の急激な増加を招いている要因である.すでにβ―γは最大値を経て減少しつつあり,β―γ=0となる日に市中感染者が最大値となる.日毎陽性者の最大値は2,3日遅れるがその後は減少期に入る.感染率の増加要因にはワクチン接種による抗体の減少もあると予想され,特に若い世代のブースター接種が重要である.幸い重症者の割合はあまり増えていないが,発症者の病状はかなり厳しいという報告が出ている.今後withコロナの方針でよいか否かは検査・隔離体制の強化状況に依存するだろう.

「検査・隔離体制を強化することにより社会経済活動を縮小させることなくコロナ戦争に勝つことができる」.この考え方は僕の最初からの理論的立場です.現在はほぼ主流になりつつあると思いますが,そのためには検査・隔離体制の強化(土・日の臨時検査補強体制)が必要・不可欠であることが感染症の行政専門家にもまだ十分認識されていないように思えます.

東京都のCOVID-19の第5,6,7波の簡単な比較

 

東京都における新型コロナ感染症第5波の感染拡大縮小過程の解析に関する国際英論文とその邦論文の紹介

昨年12月2日,「はてなブログhttps://kyono.hateblo.jpに,「東京都のCovid-19第5波 感染拡大・縮小過程のSIR理論解析」と題して,11月末の東京都の最新感染動向のデータに基づき,「東京都における新型コロナウイルス第5波の感染拡大・縮小の主要因の分析」と題するPDF論文を掲載しました.その後この英訳論文を作成し,12月13日にOpen accessのonline国際誌[International Journal of Epidemiology and Health Sciences (IJEHS)](Top 30 Epidemiology Journals によれば2番目)に投稿したところ,3人のReviewersから頂いたCommentsを考慮して規定様式に合わせた修正論文が今年の1月23日に受理され,3月発行のVol.3, Issue 3 , March 2022にPublishされました.Reviewerの中には私が推薦した日本の感染症理論の第1人者である西浦博氏も含まれているはずです.

 オミクロン株による第6波の日毎陽性者は第5波の4倍近くに拡大してしまいましたが,第6波の拡大を招いた要因も第5の分析から示唆が得られます.国際的にも感染症の専門家から評価いただいた(Reviewer 3からはCongratulationの言葉をいただきました)第5波の解析に関する英論文は

http://www.ijehs.com/

からVol. 3, Issue 3の最初の論文 ”Numerical Analysis of the Fifth Wave of COVID-19 epidemic in Tokyo, Japan”として入手することができます.英論文では,Reviewer 3からのCommentにより,既存の感染症理論に対する問題点を指摘し,本解析で用いているIR理論の正当性をDiscussionで追記しています.このため12月に掲載した日本語論文に5.考察の章を加えて英論文の内容に対応させた改訂版をここに掲載します.

 オミクロン株による新型コロナは,感染率は高いものの重症化率が低下し(ただし検査・隔離効率の向上に起因する可能性もあります),With コロナの可能性も見えてきました.人々の意識もマンネリ化しつつありますが,最も簡明で感染症の本質をとらえたIR理論が専門家や行政の方々はもとより一般の方々にも理解されることを祈念してここに掲載します.なお,英論文も添付しました.              小野京右(東京工業大学名誉教授)

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東京都の第6波の感染拡大は検査人数を20%増加すれば阻止できる

オミクロン株による第6波の感染拡大が続き,東京都の新規陽性者数は第5波の2倍を超えるに至りました.日毎陽性者の増加率はまだ前週の2倍以上もあるので,果たしていつ最大値をとり感染拡大から縮小に転換できるのかが最大の関心事でしょう.そこで(S)IR理論モデルに基づいて,オミクロン株による感染率の増加特性と実効再生産数の推移を明らかにしました.その結果,オミクロン株による感染率の増加は高々2.5倍程度であることが分かりました.また実効再生産数は1.2以下に漸減してきており,1月20日現在の検査人数を20%増加するか,あるいは人流抑制,三蜜回避などにより感染率を20%低下させれば感染拡大から縮小傾向に転換できることを明らかにしました.現在検査キットの不足が危ぶまれていますが,24時間生産中とのことであり,恐らく供給不足は解消され,1月末までには感染拡大から縮小へと転換されると思われます.

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オミクロン株の第6波を抑圧するには検査人数を2倍にすればよい

オミクロン株による第6波の感染拡大が脅威になっています.日毎陽性者数は、1月6日から9日にかけては1週間の平均倍率が10倍を超え,感染爆発の恐れがあります.しかしSIR理論に基づいて解析しますと,オミクロン株の感染力はデルタ株の約2倍であり,検査人数を現状の2倍にすれば感染縮小に変えることができそうです.詳しくは添付のPDF資料をご覧ください.

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