東京都のCovid-19第5波 感染拡大・縮小過程のSIR理論解析

オミクロン変異株による新型コロナCovid-19の第6波の到来が懸念されています.その対策のためにも,第5波は7月末になぜ急激に感染拡大したのか,また9月から10月にかけてなぜ急速に縮小したかについて,感染症流行に関する(S)IR理論に基づいて数理的に明らかにしました.得られた主な結果は以下の通りです.(1)7月下旬から8月中旬にかけての感染拡大は,オリンピック開会式に関連して設けられた4連休と閉会式に関連して設けられた3連休に,検査人数が平日の半分に低下したためである.もしこの連休期間に平日の検査数が維持されていれば,日毎陽性者は8月初旬に最大2000人弱となりそれ以後単調に減少し,9月中旬には平均値が100人以下となるはずであった.(2)デルタ株による感染率は日毎陽性者が最大となった8月中旬から8月下旬まで増加したが,検査数の増加による検査・隔離率が感染率より勝ったため日毎陽性者数は減少した.(3)ワクチン接種率の増加により,感染率は9月初旬に1/2に低下し,11月初旬には1/3まで低下した.9月以降の急激な日毎陽性者数の減少は,このワクチン接種による感染防止効果が主要因である.

今後デルタ株より感染力の強い変異株が到来しても,ワクチン接種率を高め,3連休以上をなくし,感染拡大の緊急事態時には土日にも平日並みの検査数を維持する臨戦検査体制をとることによって感染の波を第5波以下に抑圧できます.

詳しい解析内容は添付の論文「東京都における新型コロナウイルス第5波の感染拡大・縮小の主要因の分析」を参照してください.多くの感染症医療の専門家,厚生労働省の方々が読まれることを望みます.

著者:小野京右(東京工業大学名誉教授),菊地勝昭 

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東京都における新型コロナウイルス第5波の感染拡大・縮小の主要因の分析 とウイズコロナ社会実現への期待

東京都における新型コロナ感染症の第5波は8月末から急激に縮小し,10月12日現在の新規陽性者数は週平均で100人以下となりました.テレビでは「第6波が必ずやってくるだろうからなぜ急激に低下したのか科学的に明らかにする必要がある」という言葉をよく聞きます.この疑問は全く科学的ではありません.第6波の感染拡大を防ぐには,第5波の感染拡大が何故起きたのかを明らかにする必要があります.また感染縮小の第一要因はコロナワクチン接種の普及であることは常識的に自明です.これは従来にない新しい展開です.むしろ第5波の感染急拡大の主要因を科学的に理解し,with コロナの新しい社会が実現できるのではないかと考える新しい段階になっているのです.本論文は多くの犠牲者をもたらした第5波の感染症流行の主要因は何かを科学的に解明し,その要因が検査・隔離の重要性を十分に理解しなかったためであることを示します.そして今後ワクチン接種の普及と抗体カクテルなどの医薬の進歩の下では,先進国ではすでに採用されている無料の即自検査制度を導入することにより,感染者を医療体制の範囲内に抑えつつ自由な社会・経済活動を復活できる可能性があることを示しました.

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第5波の感染縮小期の今,重要なことは何か?

 

        連休の少ない検査がその後の感染拡大に!コロナに休日はない!

 東京都における新型コロナ感染症の第5波は8月19日の5534人(報告日別)を最大として,その後縮小期に入りました.週平均の減少率は一週間後に80%台,2週間目に70%台,3週間目以降は50%台となり,今週(9/13~)は週平均値で1000人を切ると思うほどになりました.テレビでは急激に減少している原因は何か,安心すると低減速度が低下し再拡大するのではといった議論がなされています.

 筆者は8月20以降の数理解析は行っていませんが,緊急事態宣言下でも日毎陽性者が急増し,中等・重症者者の急増に医療が逼迫し,死亡者が増え,その恐怖が若い世代を含めて自粛行動をもたらしたためと考えています.さらに若者世代へのワクチン接種と検査の無料提供などが進んでいることも要因となっているでしょう.しかしテレビを見ていると急激な減少の根拠についての議論はしますが,7月末の急激な第6波の感染拡大はなぜ生じたのかという議論を聞いたことがありません.今後第6波を生じさせないためにも,第5波はなぜ生じたのかを明らかにすることの方がもっと重要です.

 筆者は8月2日に,「新型コロナ感染症の第5波の感染拡大の主原因は何か?第1部:7月末の感染拡大の解析」と題して,7月末の週平均2倍以上の感染爆発はオリンピック開催日に関連した4連休に保健所・医療機関の検査数が半減以下になったためであることを示しました.また8月24に,「第2部:IR理論による詳しい分析結果」と題して,8月20日までの感染拡大を数理解析し,もし開催日の4連休と閉会日の2連休に平日並みの検査数を維持していれば,第5波の感染拡大はなかったことを数理的に示しました.

最近,厚労省の専門家および西村新型コロナウイルス感染症対策担当大臣から,オリンピック開催日の4連休と閉会日の2連休が感染拡大の原因であるとの見解を聞きました.連休が原因とは何でしょうか.多くの人々が思うように若者の自由な行動が感染拡大の原因だというのでしょうか.それは全く間違いです.真実は,4連休間の検査数の平均値がその前後日の検査数の平均値に対して45%に低下したことが主原因です.筆者は第3波の感染拡大も2日以上の連休における検査数の低減が契機になったことから,第5波では1週間の平均値ではなく,一日ごとの新規陽性者をIR理論に基づき解析し,連休における感染拡大のメカニズムを明らかにしました.例えば,7月中旬の平均的な感染率β=0.45, 検査・隔離率γ=0.4のとき,市中感染者の4日間の増加は1.22倍(1週間で1.42倍)ですが,もし4日間平均検査数が45%に低下すれば,4日間後の増加は,実に2.94倍になるのです.SIR理論を論じる学者はかなりおられ,しばしば予測モデルが提示されますが,重要な感染拡大の要因については人流やコロナ感染力による感染率の増加効果しか論じていません.専門家により,検査数の検査・隔離率に及ぼす重大な効果が明確にされていたなら,第5波における危機的結果を避けることができたでしょう.第5波による医療の危機は科学の無知による無念の結果ではないかと思われます.

 今週末から3連休が始まります.これまでと同様に検査数の半減が生じれば,これまでの減少傾向が止まることは十分予想されます.そこで多くの方々が,筆者の第5波のIR理論に基づく解析論文を読まれることを再度お勧めします.この機会に二人の読者の声をここに添付させていただきます.

 一人は昨年の第1波のときから,日本のPCR検査数は後進国並みであり,その拡充の必要性を主張されていた山梨大学の島田眞路学長です.もう一人は,元 東京都衛生局地域保健推進担当副参事で,その後杏林大学保健学部看護学科(地域看護)教授をされていた塚原洋子氏です.

 

 素晴らしい論文,ありがとうございました.連休が一番の犯人ということですね!

 PCRが減るのは私どもも早くから指摘していますが,誰も文句を言わないので常態化していますね! 働きかた改革の弊害でしょうか? 私はモラルの低下だと考えています.

 先生のお考えが知事に伝わること,祈っています.

(2021/8/26)

 

  • 塚原洋子 (保健師のための相談室:なごみ主宰)

 この度も貴重な研究の継続論文をありがとうございました.グラフ・解説により自分が疑問を持っていた部分がはっきりわかりました.このような数量解析に基づく第5波の感染爆発の主原因が連休による検査数の減少であるという貴重な内容を有効活用できる方法はないものでしょうか?

 新型CORONA感染症対策に追われ,今や保健所は崩壊寸前,少しくらいの工夫を加えても焼け石に水です.教え子たち保健師が家庭崩壊の危機にあえぎながら,家族や子どもたちの協力・犠牲と彼女・彼らの使命感で何とか勤務している状況に,私は話を聞くだけで何もできていない自分に忸怩たる思いです.市町村でもきめ細かな対人保健サービスは新型CORONA感染症対策のために十分実施できず,住民の健康を守り予防活動を推進することは困難な状況にあります.

 平成9年に地域保健法が施行され,多摩地域の保健所は二次医療圏ごとに1か所,つまり5か所に減りました。(特別区の23区は,昭和50年自治法改正で東京都から保健衛生部門は移管されましたので,現在は各区長が保健衛生部門を管轄しています).保健サービスは,住民に身近な市町村で実施し,保健所は広域的に専門的な機能を強化するということになりました.

 当時、私は都の管理職試験を受けましたが,その二次面接のときに面接官である衛生局及び総務局の幹部試験官に「公衆衛生行政は順調であるから危機管理としての都の保健所を集約し,1か所に.という案がありますがあなたはどのように思いますか」という質問を受けました.そこで私は,過去に東京都庁感染症対策を5年間担当した(エイズやラッサ熱などが問題になった頃)経験と,現場保健師の立場から「グローバル化する社会における公衆衛生行政の充実強化,保健所の役割,特にこれからの感染症対策の重要性」を主張し,せめて現在の12か所を守るべきだと発言したことを思いだします。

 東京都保健所は5か所になり,広域的・専門的な機能を所管,市町村が母子保健など対人保健サービス部門を所管し,各市町村が充実をはかり現在に至っています.しかし昨年来のCOVID-19の感染爆発対策,また広域的な対応を迫られる大規模災害つまり公衆衛生上の危機管理対策はこれで良いのだろうか??と疑問を持ち続けてきました.

 現実には地域保健医療計画の二次医療圏域の,例えば多摩府中保健所の圏域は,府中市小金井市三鷹市武蔵野市調布市,狛江市で人口は100万人超えです.ベッド数や医療体制は規定されていますが,現在のCORONA禍で十分機能しているとは考えられません.「保健所を減らしすぎた」と今頃批評する人がいますが,当時の戦いにはその方々は賛同したのでしょうか?

 小野様の論文をマスコミに知っていただきたいと思い,私はその都度テレビ朝日のモーニングショウに転送しています.COVID-19対策は,各立場の専門家がエビデンスに基づき分析し,感染状況レベルに対する評価基準に基づき緊急事態宣言を発出し,国民に自粛協力を依頼していますが,ワクチン接種の高率化頼みだけでは足りないように思います.

 この度の論文の解析は,4連休による検査数の激減が第5波の感染爆発となり医療の逼迫,重症者と死者の増加をもたらしたことを明らかにしたもので,今後,ワクチン接種に検査体制の充実を加えれば,新たな感染拡大の波を防ぐことができる可能性を示していると思います.オリンピックでは,関係者のPCR検査を毎日行ったとのことです.このような体制が臨時的にとれるなら連休の検査数維持政策をとれるはずです.これにより感染爆発の芽をつむことができれば,with CORONAの生活を実現できるに違いありません.

 新型CORONAに感染し苦痛の日々を過ごされている皆様にお見舞い申し上げるとともに,日夜,治療・看護・救急対応他,多くのご苦労をされている関係の皆様に心から感謝しております.

(2021/8/31)

新型コロナ感染症の第5波の感染拡大の主原因は何か? 第2部:IR理論による詳しい分析結果

東京都における新型コロナ感染症の第5波の感染拡大の主原因をIR理論に基づいて8月20日時点で解析し,オリンピック開催日に合わせた4連休と閉会日に合わせた2連休における新型コロナの検査数が半減したことが主原因であることを明らかにしました.そしてもし4連休と2連休においても平日並みの検査数が維持されていれば,日毎陽性者は4連休前の1400人レベルに維持されていることを示しました.また感染率は変異種デルタ株により高くなっていますが,ワクチン接種による高齢者層の感染率の減少と若年増の感染率増加が相殺し,しかも緊急事態宣言による人流抑制政策による感染率低減効果は8月20日時点ではほとんど見られずほぼ一定に維持されていることが分かりました.今後はワクチン接種を進めるとともに,連休においても平日並みの検査・隔離率を維持できるような保健所・医療機関の検査・隔離体制を民間の検査業者の協力を得て確立することが感染拡大をふせぐための重要な課題であると考えます.

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東京都における新型コロナ流行の第5波の感染拡大の主原因はなにか?第1部:7月末の感染拡大の解析

2021年8月2日

東京工業大学名誉教授 小野京右

東京圏を中心とするCovid-19の新規陽性者が一週間で2倍以上の速度で増加しており,7月31日には新規陽性者が4058人,全国では1万2千人超となり,医療体制の逼迫と重症者の増加が懸念される事態となりました.オリンピックは観客なしのバブル方式で行われこの第5波とは無関係と考えられています.しかし本論文はオリンピック開催日の4連休における検査数の急減が7月末の感染爆発の主原因であることを明らかにしました.感染症に係る専門家,医療,行政の多くの方々が読んでくださることを希望します.

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東京都における新型コロナウイルス感染症第3波流行の分析と対策について(2021年1月29日)

  新型コロナウイルス感染症の第3波感染拡大も非常事態宣言発令後急速に縮小されてきました.そこで都の公開データを用いて,前報に続いて東京都の1月24日までの第3波感染拡大・縮小の状況を解析し,今後を予測しました.

主な内容を以下に示しますが,多くの方々,特に感染症専門家,行政の方々の一読を希望します.

  • 感染症流行現象の(S)IR理論を再度解説し,新型コロナ感染症と人類の戦いは,ウイルスの感染力と人の交流による拡散力との相乗効果による感染率βとPCR等の検査・隔離率γとの戦いであることを示しました.
  • 陽性率をも考慮した検査人数に対する検査・隔離率γの因果関数を用いて,新規陽性者数の実データから第3波の感染拡大・縮小過程でβとγの戦いがどのように推移してきたかを明らかにしました.
  • 非常事態宣言により社会・経済活動を縮小・自粛するのは,人類がウイルスに負けて耐え忍んでいる状態を意味します.人類がウイルスに勝つためには,情緒的思考ではなく,(S)IR理論に基づく科学により,検査・隔離体制を強化して常にγをβに負けないような戦略をとることです.
  • 1月20~24日の日毎陽性者の減少度から推測すると2月7日には新規陽性者は500人以下になりますが,保健所は自宅待機者の入院調整作業のため検査人数も低下しつつあるので,宣言解除すれば感染再拡大が始まります.
  • 非常事態解除後の再燃を防ぐために,1月8日の感染率最大値に負けない検査・隔離率を準備するには,1月24日の7日間平均検査人数10108人の約1.9倍の19000人/日が可能となる検査・隔離体制が必要です.
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東京都における新型コロナ感染症流行の12月24の状況分析と対策について

  新型コロナ第3波の感染拡大が止まりません!東京都における新型コロナウイルス感染症流行第3波の分析と感染抑圧法に関する論文を12月4日にuploadしました.そこではPCR等の検査人数が11/5~11/22までのペースで増加できれば,12月以降は新規陽性者を減少に転じることができると予測しました.しかし実際の新規陽性者は12初旬より予測線から増大し, 政府,都知事の強い自粛と時短要請にもかかわらず増加し続けています.本稿ではその理由は何なのかを分析し,第1波のときのような非常事態宣言が必要なのか,自粛度は現状程度で抑圧状態にするに必要な検査人数はどれだけ必要かについて考察しております.関心の高い方々,行政に係る方々にご参考になれば幸いです.なお12_26版は12/24版に直近のデータを追加し新しい説明を加えています.

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