第5波の感染縮小期の今,重要なことは何か?

 

        連休の少ない検査がその後の感染拡大に!コロナに休日はない!

 東京都における新型コロナ感染症の第5波は8月19日の5534人(報告日別)を最大として,その後縮小期に入りました.週平均の減少率は一週間後に80%台,2週間目に70%台,3週間目以降は50%台となり,今週(9/13~)は週平均値で1000人を切ると思うほどになりました.テレビでは急激に減少している原因は何か,安心すると低減速度が低下し再拡大するのではといった議論がなされています.

 筆者は8月20以降の数理解析は行っていませんが,緊急事態宣言下でも日毎陽性者が急増し,中等・重症者者の急増に医療が逼迫し,死亡者が増え,その恐怖が若い世代を含めて自粛行動をもたらしたためと考えています.さらに若者世代へのワクチン接種と検査の無料提供などが進んでいることも要因となっているでしょう.しかしテレビを見ていると急激な減少の根拠についての議論はしますが,7月末の急激な第6波の感染拡大はなぜ生じたのかという議論を聞いたことがありません.今後第6波を生じさせないためにも,第5波はなぜ生じたのかを明らかにすることの方がもっと重要です.

 筆者は8月2日に,「新型コロナ感染症の第5波の感染拡大の主原因は何か?第1部:7月末の感染拡大の解析」と題して,7月末の週平均2倍以上の感染爆発はオリンピック開催日に関連した4連休に保健所・医療機関の検査数が半減以下になったためであることを示しました.また8月24に,「第2部:IR理論による詳しい分析結果」と題して,8月20日までの感染拡大を数理解析し,もし開催日の4連休と閉会日の2連休に平日並みの検査数を維持していれば,第5波の感染拡大はなかったことを数理的に示しました.

最近,厚労省の専門家および西村新型コロナウイルス感染症対策担当大臣から,オリンピック開催日の4連休と閉会日の2連休が感染拡大の原因であるとの見解を聞きました.連休が原因とは何でしょうか.多くの人々が思うように若者の自由な行動が感染拡大の原因だというのでしょうか.それは全く間違いです.真実は,4連休間の検査数の平均値がその前後日の検査数の平均値に対して45%に低下したことが主原因です.筆者は第3波の感染拡大も2日以上の連休における検査数の低減が契機になったことから,第5波では1週間の平均値ではなく,一日ごとの新規陽性者をIR理論に基づき解析し,連休における感染拡大のメカニズムを明らかにしました.例えば,7月中旬の平均的な感染率β=0.45, 検査・隔離率γ=0.4のとき,市中感染者の4日間の増加は1.22倍(1週間で1.42倍)ですが,もし4日間平均検査数が45%に低下すれば,4日間後の増加は,実に2.94倍になるのです.SIR理論を論じる学者はかなりおられ,しばしば予測モデルが提示されますが,重要な感染拡大の要因については人流やコロナ感染力による感染率の増加効果しか論じていません.専門家により,検査数の検査・隔離率に及ぼす重大な効果が明確にされていたなら,第5波における危機的結果を避けることができたでしょう.第5波による医療の危機は科学の無知による無念の結果ではないかと思われます.

 今週末から3連休が始まります.これまでと同様に検査数の半減が生じれば,これまでの減少傾向が止まることは十分予想されます.そこで多くの方々が,筆者の第5波のIR理論に基づく解析論文を読まれることを再度お勧めします.この機会に二人の読者の声をここに添付させていただきます.

 一人は昨年の第1波のときから,日本のPCR検査数は後進国並みであり,その拡充の必要性を主張されていた山梨大学の島田眞路学長です.もう一人は,元 東京都衛生局地域保健推進担当副参事で,その後杏林大学保健学部看護学科(地域看護)教授をされていた塚原洋子氏です.

 

 素晴らしい論文,ありがとうございました.連休が一番の犯人ということですね!

 PCRが減るのは私どもも早くから指摘していますが,誰も文句を言わないので常態化していますね! 働きかた改革の弊害でしょうか? 私はモラルの低下だと考えています.

 先生のお考えが知事に伝わること,祈っています.

(2021/8/26)

 

  • 塚原洋子 (保健師のための相談室:なごみ主宰)

 この度も貴重な研究の継続論文をありがとうございました.グラフ・解説により自分が疑問を持っていた部分がはっきりわかりました.このような数量解析に基づく第5波の感染爆発の主原因が連休による検査数の減少であるという貴重な内容を有効活用できる方法はないものでしょうか?

 新型CORONA感染症対策に追われ,今や保健所は崩壊寸前,少しくらいの工夫を加えても焼け石に水です.教え子たち保健師が家庭崩壊の危機にあえぎながら,家族や子どもたちの協力・犠牲と彼女・彼らの使命感で何とか勤務している状況に,私は話を聞くだけで何もできていない自分に忸怩たる思いです.市町村でもきめ細かな対人保健サービスは新型CORONA感染症対策のために十分実施できず,住民の健康を守り予防活動を推進することは困難な状況にあります.

 平成9年に地域保健法が施行され,多摩地域の保健所は二次医療圏ごとに1か所,つまり5か所に減りました。(特別区の23区は,昭和50年自治法改正で東京都から保健衛生部門は移管されましたので,現在は各区長が保健衛生部門を管轄しています).保健サービスは,住民に身近な市町村で実施し,保健所は広域的に専門的な機能を強化するということになりました.

 当時、私は都の管理職試験を受けましたが,その二次面接のときに面接官である衛生局及び総務局の幹部試験官に「公衆衛生行政は順調であるから危機管理としての都の保健所を集約し,1か所に.という案がありますがあなたはどのように思いますか」という質問を受けました.そこで私は,過去に東京都庁感染症対策を5年間担当した(エイズやラッサ熱などが問題になった頃)経験と,現場保健師の立場から「グローバル化する社会における公衆衛生行政の充実強化,保健所の役割,特にこれからの感染症対策の重要性」を主張し,せめて現在の12か所を守るべきだと発言したことを思いだします。

 東京都保健所は5か所になり,広域的・専門的な機能を所管,市町村が母子保健など対人保健サービス部門を所管し,各市町村が充実をはかり現在に至っています.しかし昨年来のCOVID-19の感染爆発対策,また広域的な対応を迫られる大規模災害つまり公衆衛生上の危機管理対策はこれで良いのだろうか??と疑問を持ち続けてきました.

 現実には地域保健医療計画の二次医療圏域の,例えば多摩府中保健所の圏域は,府中市小金井市三鷹市武蔵野市調布市,狛江市で人口は100万人超えです.ベッド数や医療体制は規定されていますが,現在のCORONA禍で十分機能しているとは考えられません.「保健所を減らしすぎた」と今頃批評する人がいますが,当時の戦いにはその方々は賛同したのでしょうか?

 小野様の論文をマスコミに知っていただきたいと思い,私はその都度テレビ朝日のモーニングショウに転送しています.COVID-19対策は,各立場の専門家がエビデンスに基づき分析し,感染状況レベルに対する評価基準に基づき緊急事態宣言を発出し,国民に自粛協力を依頼していますが,ワクチン接種の高率化頼みだけでは足りないように思います.

 この度の論文の解析は,4連休による検査数の激減が第5波の感染爆発となり医療の逼迫,重症者と死者の増加をもたらしたことを明らかにしたもので,今後,ワクチン接種に検査体制の充実を加えれば,新たな感染拡大の波を防ぐことができる可能性を示していると思います.オリンピックでは,関係者のPCR検査を毎日行ったとのことです.このような体制が臨時的にとれるなら連休の検査数維持政策をとれるはずです.これにより感染爆発の芽をつむことができれば,with CORONAの生活を実現できるに違いありません.

 新型CORONAに感染し苦痛の日々を過ごされている皆様にお見舞い申し上げるとともに,日夜,治療・看護・救急対応他,多くのご苦労をされている関係の皆様に心から感謝しております.

(2021/8/31)